失敗した男子にかけることばはない。

目次

1.テスト直後に授業ができた。

合不合判定テストがついさっき終わった。

思うような結果が出なかった小6男子。

得意の算数が難しかったらしい。

確かに難しい問題もあった。でも、取れたはずの問題もあった。

本人もそれが分かっている。

だから悔しい。

「結果、出したかったからね」

そう声をかけた。

今回のテストに向けて、本人なりに頑張ってきた。だからこそ、結果が欲しかったんだと思う。

お母さんとも少し話をした。お母さんはいつも的確だ。

算数はもう少し取れたかもしれない。社会も、知識はあるのに答案にできていないところがある。

やるべきことは、まだまだある。

まずは本人の話を聞くところからはじめた。

「思いの丈をちょっと一回出してみましょう」

問題を開いた。

どこができなかったのか。

どこが悔しかったのか。

一問ずつ見ていく。

まだ本番じゃない。

それが、今は何より大きい。

2.かけることばがない。

昔、公立高校入試の合格発表は、各高校の掲示板に合格者の受験番号が貼り出されていた。

毎年、教場の先生たちと手分けして、各高校へ確認に行った。

そこには生徒本人も、親もいる。

自分の番号を見つけて喜ぶ生徒がいる。

そして、番号がない生徒もいる。

何度も見てきた光景だ。

本気で頑張ってきた生徒ほど、かけることばがなかった。

「よく頑張ったね」

「この経験は次につながるよ」

間違ってはない。

でも、今じゃない。

本人が欲しかったのは、合格だった。

そのために勉強してきた。

そのために我慢してきた。

それが手に入らなかった。

その瞬間に、ほかの何かで埋め合わせることなんてできない。

教え子が、甲子園まであと一歩で敗れたときも同じだった。

あと一歩。

でも、甲子園には行けなかった。

「ここまで来ただけでもすごい」

「よく頑張った」

もちろん、そうだと思う。

でも、彼らが欲しかったのは甲子園だった。

甲子園以外、いらなかった。

あの無念。

あの悔しさ。

本気で何かを手に入れようとして、それが叶わなかった人間に、簡単にかけられる言葉なんてない。

少なくとも、おれには見つからなかった。

3.だから、勝つために考える。

3.だから、勝つために考える。

今回の合不合判定テストは、本番ではない。

ここが決定的に違う。

悔しい。

結果が欲しかった。

でも、まだ次がある。

今回の結果は、まだ甘いところがあると教えてくれた。

だったら、今できることを始めよう。

答案を一緒に見直していく。

色の塗り分け。

最大公約数と最小公倍数。

整数の条件を整理する問題。

図形。

一つずつ確認していくと、取れたはずの問題が見えてくる。

「ああ、ここは練習不足だったね」

「こういう整数の問題、もう少しやっておこうか」

どうすれば、次は取れるのか。

勉強も仕事も、ただの作業になったらだめだ。

塾の宿題だからやる。

先生に言われたからやる。

決められた問題を、決められた時間だけ解く。

もちろん、それも必要だ。

でも、今は一問一問に目的を持ちたい。

本番のどんな場面を想定しているのか。

何ができるようになるための練習なのか。

どうすれば、あと一点を取りにいけるのか。

常に考える。

いや、本人はもう考えている。

だからこそ、その考えをチームで共有したい。

本人が感じていること。

お母さんが見えていること。

おれが授業で気づいたこと。

それぞれを持ち寄って、今、何をするのが一番いいかを考える。

決めたことも、違うと思ったら変えればいい。

今日の授業だって、答案を見ながらやることを変えていく。

必要なら前に戻る。

別の問題を持ってくる。

解き方を変える。

何度でも試す。

決められた勉強をこなすためのチームじゃない。

勝つために、みんなで知恵を絞るチームだ。

だって、勝ちたいんだから。

本人が本気で欲しがっている結果を、おれも心から欲しい。

勝つのは絶対だ。

4.少年よ、今は勝ちにいけ。

長く生きてくると、いろいろなことがある。

本気でやっても、うまくいかないことがある。

どうしても欲しかったものが、手に入らないこともある。

逆に、あのとき失敗してよかったな、と思うこともある。

あのとき別の道に進んだから、今ここにいる。

そんなこともある。

人間万事塞翁が馬。

人生なんて、何が幸いするか分からない。

ただ、それはずっと後になって分かることだ。

今、目の前にいるのは、第一志望に合格したい12歳の少年。

合不合判定テストで思うような結果が出ず、悔しい思いをしている。

そんな少年に、人生は塞翁が馬だから、は今じゃない。

今は、勝ちたいんだ。

だから、勝ちにいくぞ。

持ってるものを全部使って。

知恵を絞って。

考えて、試して、また考えて。

そして、もう一つ。

お前は賢い。

一緒にたくさんの時間過ごしてきたから、おれはそれを知っている。

だから、慌てるな。

急ぐな。

目の前の問題を、よく見て、感じて、乗れ。

もう解く力は持っている。あとは乗りこなし方だ。

お前は、乗れる。その力がある。

そして、そこにある地球のロマンを楽しめ。

算数の不思議も、理科の面白さも、歴史の向こうに生きていた人間たちも。未来も。

ただ正解を探すだけじゃもったいない。

世界は、まだまだ面白い。

授業の最後、翌日もテストだから、

「明日、全力を尽くしてください」

そう言って授業を終えた。

テスト直後だったからできた授業、タイミングに感謝。

少年よ。

人生が塞翁が馬だと分かるのは、もっとずっと先でいい。

とにかく今は、勝ちにいけ。

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