1.雑魚キャラに足を取られる
「6年に入って、塾辞める人もいたんですよね」
ある小6男子がそう言った。
中学受験は、最後まで走るだけでも大変だ。
特にラスト100日は、心と体のバランスが乱れやすい。
体を動かして心を整えよう。
この日のテーマは、通過算だった。
電車が橋を渡る。トンネルを抜ける。人や電車を追い越す。
中学受験算数では、かなり定番の単元だ。
「通過算って、一番最後の問題に出るわけじゃないし、雑魚キャラだよね。でも雑魚キャラのくせに、なんかちょっと自信がない」
能力高い系かつ生意気系男子だ。
こういうことは、よくある。
問題がものすごく難しいわけではない。
でも、言葉が映像になっていない。
「渡り始めてから渡り終わる」
「電車Aの先頭が追いつき始めてから、追い越し終わる」
言葉としては読める。
でも、どこからどこまでを見ればいいのかが、少しぼやける。
頭なのか、ケツなのか。
そこが見えないだけで、手が止まる。
2.正しさには、渡しどきがある
「図をかけ」
映像を作れ。
そういう話だ。
それが正しい。
塾の解説は、たぶん一番きれいだ。
図を書いた方がいい。条件を整理した方がいい。速さ、時間、距離をきちんと分けた方がいい。
そんなことは分かっている。
でも、それをいきなり押しつけると、子どもにとってはただの圧になって閉じてしまうことがある。
6年10月の今の時点でできていない単元や問題には、なんらかの理由があるのだろう。
急がば回れだ。
10月でも、もう一度基本から閉じた心を開かねばならない。
ただ、問題はタイミングだ。
本人がまだそれを欲していないときに、
「図を書きなさい」
「この解き方が一番いい」
とこちらが言いすぎると、能力の高い男子ほど反発するし、芽をつぶす。
できる男子ほど、自分のやり方がある。
プライドもある。
感覚もある。
だからこそ、壁が多い。
待つ、見る。
そして本人が、
「あれ、これだと見えないな」
となった瞬間に、少しだけ渡す。
「ケツかね、頭かね」
前を走っている電車の最後尾に、チョンと印をつける。
「このケツにチョンとしてから、追い越し終わるまで」
すると、生徒の顔が変わった。
「あ、そっか。ここからここまでが40秒」
おれからは「図」と言っていないが、図を書いて考えている。
正しさだけで押さない。
正しさだけで成り立っていない。
人生と同じだ。
本人がそれを欲するところまで見て、必要な瞬間に渡す。
そして、「先生はそういう待てる人だ」という安心感が、とても大事だ。
3.フルカラーの男子校
通過算のあとは、男子校の話になった。
志望校は男子校。
男子校には、謎の伝説がある。
点呼のときに空席を見て出欠を取る先生がいた。
それを見た生徒たちが、
「机ごとどかせば、いないことに気づかれないんじゃないか」
と考えた。
そして、クラス50人のうち30人くらいが、机ごと売店へ避難したらしい。
残った20人は、何食わぬ顔で教室にいる。
先生が入ってくる。
教室を見る。
そして言う。
「全員出席だな」
作戦成功。
男子校の良さは、こういうくだらなさの中にもある。
男のロマンがつまっている。大人になってもみんなの心に深く刻まれていて、笑う。
彼も笑っていた。
そこから、志望校のキャンパスの話になった。
グラウンドがきれい。
校舎もきれい。
中学校というより、大学みたいな雰囲気がある。
中学で遊ぶ。
部活をする。
男子だけの世界で、くだらないことをやる。
その先の進路につながっていく。
「マリオのスター鳴りっぱなしライフじゃん」
本人の中で、未来がフルカラーになった感じがした。
4.男子レシピ
このブログは、ログであり、男子レシピである。
今日、何を伝えたか。
どこで止まったか。
どんな言葉でほどけたか。
どんな雑談で目が光ったか。
それを残しておきたい。
今回の男子レシピは、たぶんこうだ。
正しさには、渡しどきがある。
本人が必要とする状態まで待つ。
本人の頭の中で動く映像に変える。
勉強の先にある景色を、少しだけフルカラーにする。
男子は、理屈だけでは動かない。
納得もいる。
笑いもいる。
未来の映像もいる。
くだらない話の中に、急に火がつくことがある。
こちらからワーワー言わない。
教え込みすぎない。
しゃべりすぎない。
必要な瞬間に、必要な分だけ渡す。
3歳の息子が看板の意味を聞いてきた。
うれしくて説明しすぎる。
喜んでいるだろうなとふと息子を見ると、あくびをしている。
そういうことだ。
息子が教えてくれた。
男子の空気感、信頼関係の中に必要なことはほとんど詰まっている。
一緒にいて、必要なときに、渡す。
「図を書くと見えやすい」
ということを、少し実感したようだ。
人に言われてやる図ではなく、自分のために使う図になった。
今回の授業ログは、そこに尽きる。
